「とりあえず、高校卒業するまでってことで」



 玄関でお母さんが明るく言う。

 高折くんはわたしとお父さんの前で猫を抱いたまま、ものすごく深く頭を下げた。



「よろしく……お願いします」



 その声は、今にも消えてしまいそうなくらいか弱くて。

 わたしは生まれてはじめて、心臓が震えるのを感じた。



 その日から高折くんはうちで暮らしはじめた。

 たった一つだけ「飼い猫のミルも、一緒に連れて行きたい」とわがままを言って。

 そして高折くんがうちに来たことは、学校の友達には言っていない。

 といっても、わたしがそんなことを話せる相手は冬ちゃんくらいしかいないけど。



 でも高折くんには、わたしとは比べ物にならないほど、たくさんの友達がいる。

 男の子も女の子も、先輩も後輩も。だけど誰にも話していないようだ。

 わたしみたいな地味な女の子と暮らしているなんて、キラキラ男子の高折くんは、誰にも知られたくないのかもしれないな。