住宅街を歩き、公園に着く頃、雪はもうやんでしまった。

 わたしは両手にはぁっと息をはきかける。

 高折くんがせかすから、手袋を忘れてしまった。



「雪、やんじゃったね」

「ああ……」



 ふたりで青い空を見上げる。



「これなら、自転車で大丈夫だったね?」



 隣を歩く、高折くんの顔をのぞきこむ。

 だけど高折くんはなにも言わない。

 わたしがちょっと不思議に思っていると、高折くんがぼそっとつぶやいた。



「三学期から、おれもバスにしようかな」

「え?」



 首をかしげたわたしを、高折くんが見た。

 一瞬目と目が合ったあと、高折くんはわたしから目をそらし、ポケットに入っていた自分の手を差し出した。



「手」

「え?」

「つめたいんだろ?」



 きょとんと立ち止まってしまったわたしに、高折くんが手を伸ばす。

 そしてわたしの手をつかんで、ぎゅっと握りしめた。



「……離すなよ」



 かすかに聞こえた声に、また心臓の音が高鳴る。

 今日のわたし、遊園地のジェットコースターに乗っているみたい。

 気持ちが上がったり下がったり、くるくる回ったり……そしてずっと、どきどきしている。



 だけど前を向いている高折くんの頬もちょっと赤くて、つながった手はわたしと同じように少しだけ震えていた。



 高折くんがわたしの手を握ったまま歩き出す。

 わたしはそんな高折くんについて行く。

 女の子と手をつないで歩いたりすること、高折くんは慣れているんだと思っていたけど……もしかしてそれは、わたしの勝手な思い込みなのかな?



 わたしにはまだ、高折くんの知らないことがいっぱいある。

 これからもっともっと、高折くんのことを知っていきたい。



 空から明るい日差しが差して、公園の木も、昨日ふたりで座ったベンチも、キラキラと輝く。

 高折くんの歩くペースはゆっくりだ。

 きっとわたしに合わせてくれている。

 つめたかったわたしの手が、じんわりとあたたかくなってきた。



 このままずっとこうやっていたいな、って思う。

 そして高折くんも、わたしと同じように感じてくれていたらいいのにって、高折くんの隣を歩きながら思った。