「ねぇ、ミルって、本当はミルクって名前だったんだね?」



 ミルの頭をなでながら言ったら、高折くんがびくっと肩を震わせた。



「え、違うの? 新名くんに聞いたんだけど」

「そ、そうだよ。ほんとの名前はミルク」



 高折くんがわたしから視線をそらす。

 なんかヘン。高折くん、なにか隠してる?



「ミルクって名前、かわいいね。高折くんがつけたんでしょ?」

「ああ……小学生のときにな」

「なんでミルクにしたの? 白くもないけど」



 ミルは茶トラのオス猫だ。

 こう言ってはなんだけど、太っているし、あんまりかわいらしい顔はしていない。



「な、なんでもいいだろ?」

「なんかあやしいんだよね? 高折くん、絶対なんか隠してるでしょ?」

「う、うるせぇな! 隠してなんかねぇよ」



 そんなわたしたちの前に、お母さんがマグカップに入ったコーヒーを置く。



「あら、あなたたち、ずいぶん仲良くなったのね。なにかあった?」

「なんにもありません!」



 ふたりの声がかぶってしまった。

 お母さんもお父さんもくすくす笑っている。

 高折くんはちょっと赤い顔をして、気まずそうにコーヒーをすする。



「にゃ~ご」



 もう一度かわいくない声で鳴いたミルは、高折くんの膝から降りて、のしのしとどこかへ歩いていってしまった。



「そういえば『ミルク』って名前、『くるみ』に似てるわね」



 さりげなく会話に加わったお母さんの声に、高折くんがコーヒーを噴き出した。



「ぶはっ……す、すみません」

「あら、どうしたの? 大丈夫?」



 ミルク……クルミ?

 え、もしかしてミルクって名前、わたしの名前と関係してる?

 ちらりと隣に座る高折くんを見る。

 高折くんはめちゃくちゃあわてた様子で、ティッシュで顔を拭いている。



『おれの初恋って……幼稚園のときだったんだ』



 さっき聞いた声が頭に浮かんで、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきた。

 わたしは高折くんにもらったマグカップに口をつける。



 お砂糖とミルクのたっぷり入ったコーヒーは、いつも以上に甘かった。