「う、うん。やっぱり、ちょっと傷ついた」



 顔を上げた高折くんがわたしを見る。



「だって勇気を振り絞って告白したのに……『うそだろ』『ありえない』なんて言った上に、『新名とつきあえ』なんて……」

「でもさっき、お前も言ったよな? 『うそ』って。『そんなのありえない』って」

「あ……」



 目と目が合った。

 真面目な顔でわたしを見ていた高折くんが、ふっと口元をゆるませる。

 それを見たわたしも、いつの間にか笑顔になってしまった。



「おれ、ちょっと傷ついたんだけど。さっき」

「ごめんなさい」

「本気だよ?」

「うん」

「好きなんだ」

「うん」

「じゃあ、おれとつきあって?」



 顔を上げて高折くんを見た。

 高折くんもまっすぐわたしだけを見ている。



 わたしたちがはじめて出会ったあの日から、わたしたちをつなぐ細い糸は、つながっていたんだ。

 まわり道して、少し絡まり合ったりしながら、それでもちゃんとつながっていたんだ。



「……はい」



 答えた瞬間、熱が出たように顔が熱くなった。

 見ると、高折くんの顔も、なんとなく赤くなっている。



「なんか……すっげぇ、うれしい」

「わたしも……」



 顔を見合わせて笑った。

 ミルが目を覚まし、高折くんの膝からわたしたちを見上げて「なぁ~ご」と鳴く。

 ミルの背中をなでながら、わたしの前で笑う高折くんは本当に幸せそうに見えて、わたしはそれが一番うれしかった。