隣を歩く高折くんをちらっと見上げる。

 マフラーを首にぐるぐる巻きつけている高折くんは、まっすぐ前を向いたままだ。

 ひんやりとした風が吹いて、わたしもマフラーを鼻まで押し上げた。



 あの夏の終わりの、どしゃ降りの雨が降った午後。

 高折くんがうちに来た。

 あれから四か月。

 すっかり季節が変わった今日、わたしははじめて学校以外の場所へ、高折くんと出かける。



 ふたりでバスに乗って、駅へ向かった。

 お母さんや冬ちゃんと何度も来ている場所なのに、今日はいつもと違って見える。

 駅前の待ち合わせ場所についても、まだ誰も来ていなかった。



「みんなまだみたいだね」

「うん」



 白い息をはきながら、ふと近くのお店を見ると、クリスマスの飾りつけがしてあった。

 赤や緑で彩られたサンタクロースやトナカイのぬいぐるみ。

 どこかからクリスマスソングも聞こえてきて、ちょっとウキウキしてくる。



「よかったの?」



 高折くんの声に、わたしは隣を見る。



「お母さんたちと、ケーキ食べないで」

「あ、うん」

「なんか無理やり誘っちゃったかな……おれ」



 わたしはあわてて首を振る。



「違う。無理やりなんかじゃないよ? お母さんたちとはいつでも食べれるし」



 高折くんが小さく笑ってつぶやく。



「いつでも食べれるわけじゃないよ。突然食べれなくなるときもある」

「あ……」



 突然の事故で……高折くんのお母さんは亡くなってしまったから。

 わたしは持っていたバッグをぎゅっと握る。

 そんなわたしに高折くんが言う。



「今日さ、ケーキ買って帰ろうよ。で、帰ったらみんなで食べない?」

「うん」



 わたしはうなずく。



「うん。そうしよう」



 高折くんは笑って、それから空を見上げた。

 真冬の、雲ひとつない青く澄んだ空。

 わたしもそれを一緒に見上げる。

 ずっとこうしていたいな……そんなことをふと思った時、高折くんの電話が鳴った。