「もしかして高折くん。くるみと暮らす前からずっと、くるみのこと、好きだったんじゃないの? だから彼女作らなかったんじゃないの?」



 まさか。そんなことはありえない。



『蓮くんも同じ高校に通ってるらしいよ!』



 高校入学後、お母さんからそう聞いて、わたしは別のクラスだった高折くんの姿を確認した。

 誰にも気づかれないように。

 だけどそのときすでに高折くんは有名人で、わたしとはまったく別世界の人だった。

 だからわたしたちは、同じクラスになってもしゃべることもなく、高折くんの記憶の中に、もうわたしはいないんだって思っていた。



「ヘンなこと言ってないで、早く描こう。時間なくなるよ」

「ヘンなことじゃないのになぁ」



 わたしの隣で冬ちゃんが言う。



「わたしはくるみに、幸せになってもらいたいんだよ?」



 そっと冬ちゃんの顔を見た。

 冬ちゃんはわたしに向かって、またにっと笑ってみせる。

 冷たい風がびゅっと吹いた。真っ白い紙がぱらぱらとめくれていく。

 わたしは手で髪を押さえながら、陽のひかりが当たっている校舎を見つめた。



 あと一年とちょっと。

 一年とちょっとしたら、わたしたちはこの学校を卒業する。

 卒業したら、みんなバラバラになる。

 高折くんもきっと、わたしの家からいなくなる。



 なんだか寂しくなって、もう一度ちらりと振り返る。

 みんなが絵を描きはじめている中、高折くんだけがぼんやりとこっちを見ていて、わたしはまた急いで視線をそらした。