「さっむー」

「この寒空の下でスケッチとか、ありえないし」



 みんなの文句を聞きながら外へ出る。

 今日の美術の授業の課題は、『外へ出て好きなものを描く』というものだ。

 クラスのみんなは、それぞれ好きな場所へ散らばっていく。

 わたしは冬ちゃんと、校庭と校舎の見える場所に座ってスケッチブックを広げる。



 誰もいない校庭は静かだった。

 春には満開になる桜の木は、葉っぱもなく、どこか寂しげに立っていた。



 少し離れた場所で、たくさんの笑い声が響く。

 そっと振り返ると、新名くんたち男子グループの周りに女の子たちが集まっている。

 男の子たちがふざけて、女の子たちがおかしそうに笑う。

 いつも見ている光景だ。



 わたしはその中にいるはずの、高折くんの姿を探す。

 毎日家で会っているのに、教室で隣の席に座っているのに、いつもわたしは高折くんの姿を探してしまう。



「あ……」



 女の子とおしゃべりしている新名くんから少し離れた場所に座って、高折くんがこっちを見ていた。

 目が合って、わたしはさりげなく視線をそらす。

 真っ白なスケッチブックを見下ろすと、隣で冬ちゃんがつぶやいた。