「おはよう、くるみ」

「おはよう、冬ちゃん」



 昇降口で冬ちゃんと会って、一緒に教室へ行く。



「漫画の続き、描けたよ」

「え、ほんと? 見たい! 見せて」

「部活のときにね」

「あ、ごめん。今日わたし、三者面談あるんだ」

「そっか。じゃあ、部活休む?」

「ううん、行く! 面談終わったら行く! 冬ちゃんの漫画、見たいもん!」

「じゃあ部室で待ってるよ」



 そんな話をしながら廊下を歩いていたら、ひとりの女子生徒がわたしたちを追い越した。

 さらっとなびいた髪から、シャンプーのいい香りがする。



「おはよ。矢部さん、冬野さん」

「あ、おはよう」

「おはよう」



 わたしと冬ちゃんが答える。

 そんなわたしたちをちらりと見て、さっさと行ってしまったのは、あの永峰さんだ。

 今でも永峰さんとは、クラスで関わることはほとんどない。

 だけど毎朝必ず、廊下でわたしたちに「おはよう」と言って去っていくのだ。



 教室に入るといつものように、うちのクラスは賑やかだった。

 後ろの席に集まって騒いでいるのは、新名くんたちだ。

 わたしは冬ちゃんと別れ、気配を殺すようにしてその人たちの後ろを通る。



「あ、くるみちゃん!」



 見つかってしまった。

 新名くんはあいかわらず声が大きい。

 わたしは目立ちたくないのにな……。