『いまの言葉、訂正しなさい』



 お母さんにそう言われたあと、高折くんは少し変わった。

 将来のことを真面目に考えるようになって、お母さんとお父さんに、「進学したい」と希望を伝えた。



「バイトもするし、奨学金のことも自分で調べて、迷惑はかけないようにします。でも、どうしても大人の力が必要なときは、助けて欲しいです」



 そう言って、はじめて助けを求めた高折くんに、お父さんとお母さんは「なんでも相談して」と言った。

 それから高折くんはバイトをはじめて、家にいるときは部屋で勉強をしている。

 わたしが高折くんの立場だったら……こんなふうにできるか、自信がない。



「いってきます」

「いってらっしゃい」



 高折くんが先に家を出ていく。

 わたしはひとりで「ごちそうさまでした」とつぶやいて、食器を片づける。



「じゃあ、くるみ。お母さんも仕事行ってくるからね」

「うん。いってらっしゃい」



 いつもの朝の、いつものわたしの家。

 お母さんが出かけたあと、わたしも支度をし、ミルに「いってきます」を言って鍵をかける。

 そのときちょっと、高折くんの鍵についているキーホルダーを思い出す。



「あっ、もうこんな時間!」



 気づくとバスの時刻が迫っていた。

 わたしは急いでバス停に向かって走った。