二階の部屋のドアが閉まる音を確認すると、お母さんが小さくため息をついた。



「やっぱりまだあの子、わたしたちに遠慮してるわよねぇ……」



 お母さんの声にお父さんが答える。



「無理もないよ。まだ二週間しか経ってないんだ。気長に仲良くなるしかないだろう」

「そうなんだけど……でも蓮くん見てるとつらくて。どうしてあの子ばっかりこんな目に……」



 お母さんが涙ぐんで、ティッシュに手を伸ばす。

 わたしは居たたまれなくなって、「ごちそうさま」と立ち上がった。



「ああ、くるみ」



 そんなわたしをお母さんが引き止める。



「ねぇ、蓮くんは、学校ではどんな感じ? 落ち込んだりしてない?」

「え、うーん……全然そんなふうには見えないけど」



 お母さんもお父さんも、学校での高折蓮を知らない。

 教室で見る高折くんは、いつも騒がしい人たちの中で一緒に笑っている。

 女の子にもモテモテで、よく声をかけられている。



「かわいそうに、きっと無理してるのね。くるみ、蓮くんと仲良くしてあげてね」

「クラスが一緒でよかったな」



 わたしはふたりに曖昧な笑顔を見せて、高折くんと同じように食器を運ぶ。

 お母さんたちは、学校でのわたしも知らない。

 わたしが学校でどんな女の子だと、想像しているんだろう。

 まさか永峰さんみたいなポジションだと、思ったりしていないよね?



「じゃあわたしも、もう寝るね」

「おやすみ」

「おやすみなさい」



 お父さんとお母さんにそう言って、二階へ上がる。

 わたしの部屋の隣のドアからは、明るい灯りがもれていた。