「やだね」

「は?」

「くるみちゃんの隣に、くるみちゃんを泣かせるようなサイテー男は座らせたくない」

「お前……なに言ってんの? 早くどけって」

「やだ。絶対どかん」



 新名くんは高折くんのリュックを床に落として、駄々をこねる子どもみたいに机を抱え込み、顔を押し付ける。



「わ、わたし、もう戻るね」



 冬ちゃんが逃げるように、自分の席に帰っていく。



「あ……冬ちゃん……」



 顔を上げると、わたしを見ている高折くんと目が合った。

 わたしはあわてて視線をそらす。



「おいっ、新名。サイテー男ってなんだよ。おれがなんかしたっての?」



 むくっと起き上がった新名くんが、高折くんを冷たい目で見る。



「お前はなんにもしてねぇよ」



 わたしの耳に、新名くんの声が聞こえる。



「おれはくるみちゃんに気持ちを伝えた。くるみちゃんもお前に伝えた。なのにお前は? お前はどうなんだよ? どうしていつもそうやって、本当の気持ちを伝えないんだよ。本当のこと言うのが怖いのか?」



 新名くんの手が伸びて、高折くんの胸のあたりをとんっと叩く。



「……うるせぇんだよ。お前はいちいち」



 ぼそっとつぶやいた高折くんが、新名くんの肩を押す。

 次の瞬間、いきおいよく立ち上がった新名くんが、その何倍もの強さで高折くんの体を押し返した。

 よろけた高折くんが後ろの机にぶつかる。



「お前もしかして、おれに遠慮してるつもりか? ふざけんなよ? そのわけわかんない気づかいのせいで、くるみちゃんが泣いてるじゃねーか。お前、なんとも思わないのかよ!」



 新名くんの大きな声が響いて、周りの生徒たちが振り返る。



「や、やめて……」



 わたしはあわてて立ち上がった。

 だけどか細い声しか出てこない。

 どうしよう。止めなきゃ。やめてって言わなきゃ。

 わたしが泣いたりしたから……こんなことになっちゃったんだ。



 戸惑うわたしの前で、高折くんは新名くんをにらみつけ、椅子から突き落とした。