「今日は大変だったんじゃない? 急に雨が降ってきちゃって」



 仕事から帰ってきたお母さんとお父さんと一緒に、わたしたちは夕食を囲む。

 わたしの右隣に座っているのは、高折蓮だ。

 そしてその足元には、あのデブ猫ミルが、丸くなって眠っている。

 わたしは体の右側を緊張させながら、お母さんの作ってくれたちょっと焦げたハンバーグをお箸でつまむ。



「大丈夫です。あ、でも先に、シャワー浴びさせてもらいました」

「そんなの全然かまわないわよ。何でも好きに使ってね」



 お母さんがそう言って微笑んだ。わたしはちらりと隣を見る。

 何かおかしいと思ったら、高折くんは左利きだった。

 だからお箸を持ったお互いの肘が、いちいちぶつかりそうになるんだ。



「蓮くん、おかわりは?」

「いえ、もうけっこうです」

「男の子なんだから、遠慮しないでたくさん食べていいんだよ」



 お父さんの言葉に高折くんが少し笑ってうなずく。



「ありがとうございます。でももうお腹いっぱいで。ごちそうさまでした」



 高折くんはそう言って立ち上がると、自分の食器をシンクに運んでわたしたちに言った。



「じゃあ、おやすみなさい」



 ぺこっと頭を下げて、ミルをまた肩にかつぎ、高折くんは部屋を出ていく。

 お母さんとお父さんがその背中に、「おやすみ」とやさしく声をかける。

 わたしの両親の前での高折蓮は、ものすごく謙虚で礼儀正しい青年だった。