「おはよう、高折くん」



 二階から降りてきた高折くんに言う。

 制服を着た高折くんは、寝癖のついた頭で、ちょっと驚いた顔をしてわたしを見る。



「……おはよう」

「はい、これ……お弁当」



 わたしは寝起きの高折くんの手に、できたばかりのお弁当を渡す。



「……ああ、今日水曜日か」



 水曜日はわたしがお弁当を作る日。

 高折くんも覚えてくれた。



「それから、この前……」



 一度言葉を切ってから、顔を上げて言う。



「わたしの絵を拾ってくれて……ずっと大事に持ってくれていて……ありがとう」

「え……」



 高折くんは、また驚いた顔をしている。

 無理もないよね。いまさらこんなこと言うなんて。

 でもずっと言いたかったんだ。

 あのときすごく、嬉しかったから。



「それだけ……言いたかったの」



 わたしはちょっと恥ずかしくなって、高折くんに背を向け洗い物をはじめた。

 するとキッチンの椅子に座りながら、高折くんがぼそっと口を開く。



「おばさんは?」

「もう仕事行った」

「……そっか」



 高折くんはそうつぶやくと、左手で箸をとる。



「いただきます」



 テーブルの上に置かれているのは、お母さんの作った朝食だ。

 高折くんが目玉焼きを一口食べるのを、ちらりと振り返って確認する。

 昨日お母さんが言ったこと、高折くんに伝わっているといいんだけどな……

 そんなことを考えながら、わたしは水道の蛇口をキュッと閉め、キッチンを出た。