ベッドの上で寝返りをうつ。

 今日はいろんなことがありすぎて、全然眠れない。

 ぎゅっと強く目を閉じて高折くんのことを考えた。

 隣の部屋のベッドの中で、高折くんも眠れない夜を過ごしているんだろうか。



 目を開けて、ベッドから降りた。

 カーテンと窓を開け、道路ではなく空を見上げる。

 真っ暗な夜空に、ひとつふたつ、かすかに瞬くもの。



「星が……見えるよ」



 誰にでもなくつぶやく。

 ううん、違う。

 わたしは、ここにはいない、高折くんに向かってつぶやく。



「高折くん。星が、見えるよ」



 冷たい風が吹き込んで、わたしはパジャマの上から両腕をさする。

 わたしは永峰さんや新名くんみたいに、高折くんのことを知らない。

 お母さんみたいに、包み込んであげることもできない。

 だけど、わたしにも……なにかできることがあるかもしれない。



『なれるよ』



 教室で聞いた、高折くんの声を思い出す。



『なれるよ。きっと』



 あのとき、少しだけ勇気が出た。

 高折くんに勇気をもらった。

 だからわたしも……。



 わたしは窓を閉め、机に向かって座り、スケッチブックを取り出した。

 半分にやぶれたページの、次のページを開く。



「新しい絵を、描こう」



 わたしは鉛筆を握る。

 最初に描くのは絵本を読む男の子の絵。

 できるだけやさしく、丁寧に。

 想いを込めて、白い紙に向かっているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。