「どうしよう……やっぱり無理かも」



 ため息をついて、何気なくソファーの上を見る。

 すると端っこの方に、何かが置いてあった。



「あ、あれは……」



 キーホルダーのついた家の鍵と、黒いお財布。

 高折くんのだ。ミルがこんなところに、持ってきちゃったんだ。

 わたしは何気なく鍵を手にとり、ついている恐竜のキャラクターを揺らしてみた。



 これ、高折くんの趣味かな……それとも女の子からのプレゼント?

 緑色の恐竜はだいぶ汚れていて、ずいぶん古そうにみえた。



 お風呂場からシャワーの音と、ドアの前で待っている猫の鳴き声が聞こえてくる。

 わたしはその音を聞きながら、静かに目を閉じる。



 さっき見た、高折くんの整った顔。

 雨の雫が滴る、ちょっと長めの前髪。

 濡れて透けた白いワイシャツ。

 ちょっとセクシーだった。



「わー、やだ、わたし! なに考えてるの!」



 自分で自分が嫌になり、頭を抱える。

 そして恐竜のついた鍵をテーブルに置くと、ソファーから立ち上がった。



 雨はいつの間にか上がっていた。

 大きな窓から、オレンジ色の夕陽が差し込んでくる。

 小さな庭の緑の葉っぱが、雨でしっとりと濡れている。



 そしてその時、やっとわたしは気がついたのだ。

 自分の髪も、ブラウスもスカートも、びしょ濡れだったってことに。