「……ごめんなさい」



 新名くんの前で頭を下げた。



「わたし……新名くんとは……つきあえない」



 風が冷たい。もう秋が終わってしまう。



「……そうか」



 しばらくの沈黙のあと、新名くんがつぶやいた。



「そう……だよな」



 自分自身を納得させるようにそう言って、新名くんが笑顔を見せる。



「くるみちゃん。それでもやっぱり……蓮のことが、好き?」



 わたしは新名くんの笑顔を見つめる。

 そしてもう一度静かにうなずく。



 わたしは――高折くんのことが、好き。

 男の子を好きになったことがなくても、それでもわかる。

 わたしは、高折くんのことを好きになった。



「そっか。わかった」

「新名くん……ごめ……」

「いいよ。もう謝らなくても」



 そう言って新名くんは笑う。



「今夜はおれ、泣くかもしれないけどなぁ」

「え……」

「うそうそ。正直に言ってもらえてよかったよ。うん」



 そしてわたしに向かって軽く手を振る。



「じゃあ、また」

「あ、バス停まで送る」

「いいよ、ここで。バス停まで送ってもらったら、泣いちゃうかもしれないから」



 新名くんは、冗談だか本気だかわからないことを言って、背中を向ける。



「じゃあな」

「さよなら」



 少しずつ遠くなっていく新名くんの背中に、夕陽が当たっていた。

 わたしはその背中が見えなくなるまで、ずっとそこに立っていた。