「新名くん……」



 わたしは隣に座る新名くんに言う。



「どうしてみんなの前であんなこと……」

「どこで言ったって同じだろ?」



 新名くんがわたしを見る。新名くんは笑っていなかった。



「さっきも言ったけど。おれは誰かに遠慮したり、気を使ったりしないよ。蓮がくるみちゃんを好きだって、遠慮はしない」

「まさか。そんなのありえないって言ったでしょ?」

「そうかな」



 新名くんの声が胸に響く。



「あいつはいつも、本心を見せないから」



 新名くんはそう言ったあと、ソファーの上で姿勢を正す。



「くるみちゃん。もう一回言う。おれ、くるみちゃんのこと好きになった。おれとつきあって欲しい」



 わたしは黙って新名くんの顔を見る。

 心臓が激しく動いて、本当はここから逃げ出したいのに、体が固まって動けない。

 そのとき、玄関から物音が聞こえた。



「あら、くるみ。お客さん?」



 リビングに入ってきたお母さんが新名くんを見る。

 お母さん、帰ってきたんだ。

 あわてるわたしの隣で、新名くんはすっと立ち上がって言った。



「お邪魔してます。くるみちゃんと同じクラスの新名といいます」

「まぁ、同じクラスのお友達? じゃあ蓮くんのことも知ってるのね?」

「はい。蓮とは幼なじみなんです」

「あら、そうなの!」



 わたしは新名くんの服を引っ張った。



「新名くん、そろそろ……バス停まで送ってくから」

「え、でも……」



 お母さんにつかまったら、話が長くなりそうだ。

 きっと根掘り葉掘り、新名くんに高折くんのことを聞いてくるはず。



「お母さん、わたし、新名くんを送ってくるね」

「あら、まだゆっくりしていけばいいのに」



 わたしは新名くんの服をさらに引っ張る。



「あ、すみません。お邪魔しましたー」



 新名くんは苦笑いしながら、部屋を出ていくわたしについてきた。