「じゃあさ、こういうのは? 一緒に暮らしているうちに、お互い恋に落ちちゃうとか」



 新名くんの言葉にどきっとする。

 永峰さんは、新名くんをにらんでいる。



「だって毎日こんな近くにいるんだろ? やっぱりフツー気になる……」

「ありえないから」



 新名くんの声をさえぎるように、高折くんが言った。



「そんなの、ありえないから」



 高折くんはノートに目を落とし、左手で持ったシャーペンでなにかを書きはじめる。

 わたしもうつむき、持っていたノートをぎゅっと胸に抱える。



 ありえない――そうだよね。

 一緒に暮らしているうちに恋がはじまるなんて、漫画の中だけのお話。

 わたしと高折くんの間に、そんなことはありえない。



 リビングが一瞬静まり返った。

 冬ちゃんが困ったように、ちらちらとこちらを見ているのがわかる。

 高折くんを好きだと言った永峰さんだって、きっと気分を悪くしているはず。



 話題を変えなきゃ。何かまったく別の話題を。

 だけど普段から会話が下手なわたしには、この雰囲気を変えられる話題など、思いつかない。

 そんな空気の中、新名くんが口を開いた。



「じゃあおれが、つきあってもいいんだな?」



 一瞬意味がわからなかったわたしの耳に、新名くんの声が響く。



「おれがくるみちゃんと、つきあってもいいんだな?」

「に、新名くん!」



 耐え切れずに声を上げた。



「へ、ヘンなこと、言わないで!」

「ヘンなことなんか、言ってねーよ。おれがくるみちゃんを好きだってこと、知ってるだろ?」



 顔がぶわっと熱くなる。

 新名くんはおかしい。みんなの前で、こんなことを言うなんて。

 わたしの前に座る永峰さんは、まだ新名くんをにらんでいた。

 その隣の高折くんは、ノートに目を落としたままだ。



「蓮。おれはお前に遠慮しねぇからな? いつまでも特別扱いされてると思うなよ? 永峰にも気は使わねぇ。とにかくおれは、くるみちゃんが好きだ。くるみちゃん、おれとつきあってよ」



 さらに顔が熱くなる。

 心臓がどきどきいって、もうここから逃げ出したい。

 こんな状況で、返事なんてできるわけない。

 新名くんはなにを考えているんだろう。