「ねぇ」

「……はい」



 永峰さんに、声をかけられただけで緊張してしまう。

 永峰さんは、わたしのことを嫌っているってわかるから。



「わたし、蓮にフラれたから」

「……え?」



 わたしが思わず聞き返したら、永峰さんは顔をしかめて、もう一回同じことを言った。



「わたし、フラれたの。蓮に」



 なんて言ったらいいんだろう。

 黙っていたら、永峰さんがぽつりぽつりと話しはじめた。



「この前、わたしが教室を飛び出したあと、蓮が追いかけてきて話したんだけど」



 あの日のことだ。



「蓮にね、すごく謝られちゃって。『いろいろごめん』って」



 そこまで言って、永峰さんはふっと笑う。



「あの日はわたしがペンケースぶちまけたのに、なにが『ごめん』なんだかわかんないけど、でもまぁ、なんとなくはわかる」



 永峰さんと高折くんの間には、言葉にしなくてもわかるものがあるのかもしれない。



「でもわたしは、謝って欲しくなんてなかった」



 永峰さんはぎゅっと右手を握る。



「わたしは、蓮を助けてあげることはできないけど……つらい思いを、一緒に感じてあげることはできると思ってたから。わたしが、そうしたかったから……だから『ごめん』なんて言って欲しくなかった」



 永峰さんが一瞬きゅっと唇を結んでから、つぶやく。



「好きだから」



 永峰さんの声が胸の奥に響く。

 深く、深く、響く。



 好きだから――。



 そのまっすぐな言葉が、わたしの胸から離れない。

 けれど永峰さんは、おかしそうに笑って言った。