「どうぞ」



 鍵を開けて、玄関ドアを開いた。

 お母さんは仕事でいない。



「おじゃましまーす」



 新名くんがご機嫌な様子で入っていく。

 そのあとに高折くんが続く。



「なんかヘンな感じだな。ここはいったい蓮の家なのか? くるみちゃんの家なのか?」

「くるみの家だよ」



 高折くんがぶっきらぼうに答えた。

 あ、いま、「くるみ」って言った?

 わたしのこと、名字でさえも、呼んでくれたことなかったのに。



 みんなをリビングに案内する。

 お母さんが仕事に行く前に、部屋を片づけていってくれたみたいでよかった。



「なぁ~ご」



 低くて、にごった鳴き声が聞こえた。

 リビングのソファーで昼寝をしていたミルが、むくっと起き上がって伸びをする。



「おっ、ミルクじゃん! 久しぶりー」



 新名くんがミルに駆け寄り、頭や顎をわしゃわしゃとなでまくる。



「ミルク?」



 つい口にしたわたしに、新名くんが顔を向けた。



「ミルクだろ? こいつ。あいかわらずぶさいくな顔してんなー」



 わたしはちらっと高折くんを見る。

 高折くんはミルを抱き上げ肩にのせると、「あっち行くぞ」と、部屋を出て行ってしまった。



「あの子……ミルクって名前だったんだ」



 わたしはそんな高折くんの背中を見送りながらつぶやく。



「え、くるみちゃん、知らなかったの?」

「うん。いつもミルって呼んでたから」

「ミルクだよ。蓮がつけたんだ。たしか小学生のころ、公園で拾ってきたって言ってたな」



 そうだったんだ。

 ミル、そんなかわいい名前だったのね。



「くるみー、ごめん。グラスとか借りてもいい?」



 冬ちゃんがコンビニの袋から、ペットボトルのジュースを取り出しながら言う。



「あ、いま、持ってくるね」



 リビングを出てキッチンへ行くと、永峰さんがついてきた。

 わたしはどきっとしてしまう。

 まだ永峰さんとは上手く話せる自信がない。