夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~

「私は以前、胡桃様に椿の過去を夢という形で見せましたよね?」

間違いないか、と確かめるような問い方。

思えばあれは仁菜の命令ではなく、紡さんの独断で見せられたんだっけ。

「それに結構、力を使ってしまって……次に目覚めた時、幽霊だった頃の記憶は消えてしまいます」

淡々とした口調で、紡さんは言った。

「えっ……?」

ウソでしょ?

思いもよらぬ言葉に思考が停止する。

忘れちゃうの?

仁菜と再会したことも、咲結を助けて仲直りしたことも、いじめを止めて椿を連れ出し、実の母に立ち向かったこともすべて……?

「それって胡桃だけじゃなく、私と東山君とその両親からも消えちゃうんですか?」

隣にいた咲結が聞く。その表情は、どこからどう見ても寂しそう。

「はい。残念ですが。普通は亡くなった人が生き返るとか、幽霊が人間を助けたとか、あり得ない話ですもの。なので消しざるをえないのです」

申し訳なさそうに頭を下げて、紡さんは言った。

確かに夢のまた夢のような話だ。虐待事件の事情聴取が近々行われると思うが、そんな話誰が信じてくれると言うのだろうか。はたまた、罪にとわれ刑務所にいれられたり、おかしい人だと精神病院にいれられたり、しないだろうか。