「米澤 冬香!」


突然フルネームを呼ばれた。
伏せていた視線を上げれば、太陽の恵みを浴びた向日葵のように燦然とした瞳と目が合う。


「あたし芳賀 夏枝。一年間よろしく!」


何の前触れもなく、自己紹介しながら握手を求めてきた一人の女の子。
この人、確か去年転入してきた芳賀さんだ。
少し噂を耳にしたことがあったから、一応記憶にあったけど。
……嫌だな、私こういう積極的な人苦手なのに。どうして私なんかに声掛けるんだろ。

私はあえて挨拶に応答しない。
ここでマトモに返してしまえば、その気があると勘違いされてしまうかもしれないからだ。
慣れ合うつもりは一切ない。だから彼女の親切に甘える必要もない。

逸らした目は再び文字の羅列の方へ。
しかし芳賀さんが読書を再開することを許してはくれなかった。