「晴日は悪くないよ。実際、病院のために利用されたと思うのも無理ない。」
呆然とする私。励まそうとする矢島さんの言葉を聞きながら、落ち着こうとグラスに手を伸ばした。その手は、自然と震えていた。
そのうち、そっと彼の手が触れ、ゴツゴツとした男らしい指に包まれた。手の平にブワッと汗をかき、好きだったその手の感触を思い出す。
その時、彼の薬指に光る銀色のものを見て、一瞬にして現実に引き戻された。
桜の顔がチラつき、ハッと手を引き戻す。
「ごめん。」
桜への後ろめたさで、チクチクと刺さっていたトゲ。矢島さんの一言で、さらに深く奥へと押し込まれた。
「矢島さんは、最初から全部知ってたの?」
テーブルの下で手をさすりながら、俯く。
ごめんの言葉が頭の中で反響する中、矢島さんは何かを思い出すように微笑んだ。
「昔、母さんが入院してたって話はしたろ?」
「うん。」
「院長のこと、本当に尊敬してるんだ。医者を目指すきっかけも、瀬川院長だったから。」
その時、ふとある記憶を思い出した。
彼のお母さんの話をしてくれた、出会った頃のこと。

