目を見たら、どうしても流されてしまう。矢島さんの話を受け入れてしまいそうになる。

 俯いて、彼の手を振り解こうと必死になった。


「知ってるよ。院長に全部聞いた。」

「じゃあ、どうして?プライドの高いお父さんが、今更私のことを気にかけるとは思えない。誰に言われてきたの?桜?お母さん?」

「違うよ。」

 私は、無我夢中だった。

 でも、力強い手から逃れることはできず、諦めるように立ち尽くす。

「じゃあ、なんなのっ......」


「俺が心配してたとは思わないのかよっ!!」


 大きな声が、店中に響いた。

 私は手を掴まれたまま、ビクッと反応して動けなくなった。


 結婚式で散々暴言をはいた時でさえ、声を荒げることがなかった彼。付き合っていた3年間、温厚なところしか見たことがなかった。だから、驚いた。こんな風に声を出す彼を、初めて見たから。


「ちょっと、2人とも落ち着こうか。ね?座って。あっちの、奥の席使っていいから。」


 零士さんが声をかけてくれなかったら、タイミングを失ったまま、どうしたらいいか分からなかったと思う。

 離れていく彼の手。私は零士さんに支えられながら、ゆっくりと席を移動した。