体の弱い桜が、小さい頃は羨ましかった。

 母の注意はいつも桜に向けられていて、私のそばにいたのはベビーシッターのお姉さんだけ。大きな病気もしなければ、滅多に風邪も引かない。健康体そのものの私。


 母の口癖は、"晴日ちゃんなら大丈夫"。

 その一言だった。


 本当は、桜のことを妬んで、嫌いにでもなりたかった。でも、できなかった。私が一人で泣いている時、真っ先に気づいてくれるのは、いつでも桜だったから。こっそりと自分の部屋を抜け出して、私に会いにきてくれた。

 父に怒られた時も、あの家で息が詰まるような時も、いつも支えてくれていたのは桜だった。桜だけが、誰にも話せない弱音を聞いてくれた。


 だから、私にとって桜は、世界で一番大切な人になった。



「軽い過呼吸のようですね。もう大丈夫です。」

 主治医の先生がすぐに到着し、矢島さんの処置も早かったことから、桜は大事には至らなかった。壁にもたれかかり、その言葉を聞いてホッと安堵する私。

「桜!!」

「桜ちゃん!?」

 父と母が慌てて飛び込んできたのは、そのすぐ後のことだった。

 それから開口一番。父の怒りは私に向けられた。

「晴日、何か言ったのか。この大事な時に、桜を動揺させることでも。」

 冷たい目。静かにそう言う父は、私を疑っているようだった。