「そんな言い方しなくても......。」
「15の時。俺を家政婦に押し付けて、あの人たちはドイツに行った。帰ってくるのは年に数回。今更、親だなんて思えないね。」
初めて、自分のことを話してくれた気がした。
きっと、彼はそのことに気づいていないだろうけど、私からしたら大きな一歩。驚く私をよそに、走り出す車の中、彼は自分の話に呆れたように鼻で笑った。
「放ったらかしだったくせに、今更母親ヅラして。37にもなって独り身だと安心できないからって、早く結婚させようとしてくる。よく言うよ。どうせ周りからチクチク言われて、体裁が悪いだけのくせに。」
ご両親と久しぶりに会って、気持ちが解放されたのか。珍しく饒舌な彼。
隣にいて、どんな言葉を返したらいいか分からなかった。
「でも、晴日ちゃんには感謝だね。煩わしかったそういうことも、もう言われないと思うとホッとしてる。」
それでも、彼は無理やり笑顔を作っていた。私は何も言えず、何度か頷いた後、黙り込む。
孤独――
彼から感じたのは、そういう感情だった。

