「私、千秋さんのご両親わからないので、来たら言ってくださいね?手前で言ってもらわないと、心の準備があります。」

 私は、心ここに在らずと言った心境。

 周りをキョロキョロしながら、会場の雰囲気に飲まれつつあった。


 そんな時、前方のステージがパッと明るくなった。騒ついていた場内も、急にしんと静まり返る。

 そして、注目が集まった。


「皆様。本日は、聖リリーホール 創立20周年記念パーティーにお集まりいただき、誠にありがとうございます。」


 女性の挨拶が始まった。それを聞いて初めて、これが何のパーティーだったのかを知る。

 これは、ここのホールの記念式典だった。


「えっ......」

 その時、後ろの横断幕に書かれていた名前を見て、声が出た。

 "創立者 藤澤 聖子(ふじさわ せいこ)"


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっ。あれ、藤澤って。千秋さんのお母さんって、もしかして。」

 驚きのあまり、うまく言葉にできなかった。さすがに大きな声は出せなくて、精一杯の小声で話しながら、腕をバシバシと叩く。

 よく見ると、ステージ上で挨拶をしているのがその本人だと分かり、ただ事ではないこの状況に心臓が騒がしくなった。


「そう。」

 しかし、顔色ひとつ変えない彼を前に、思わず声を失った。