「君の目的は、お見合いを破談にさせたいってことだった。でも、それは勘当されて破談。それなら、本当に結婚する必要はなくなったんじゃないか?」


 それには、何と言ったらいいか分からなかった。

 たしかに、その通り。もう、私が彼と結婚する理由はなくなった。


「ダメなの。」

 でも、そんな単純な話じゃない。だから、私はここにきた。彼と結婚するために。

「ここで結婚しなかったら、私はただ逃げたくてハッタリをかましただけだと思われる。」

「ほー。」

「父に証明したいんです。私はあの時、本気だったってこと。意地なの。.....だから、まだあの話が有効なら、私と結婚してください。」

 真剣に、ただただじっと彼を見つめ続ける。


 すると、彼は無言で立ち上がった。

 私を放ったらかしにして、急にその場からいなくなる。気になって目で追っていくと、入っていったのは私が今朝起きたベッドルームだった。

 部屋の中からはバタバタと音だけが聞こえてきて、急な行動に思わず首をかしげる。


「はい、これ。」

 そんな中、戻ってきた彼は、突然テーブルの上に何やら広げ始めた。

 免許証、健康保険証、パスポート、住民票。身分証明書と呼ばれるものの数々が、順番に置かれていく。