「ただいまー....。」

 あれから、私は近くの駅で電車に乗ると、30分かけて自宅まで戻ってきた。


 門を開けて入っていくと、番犬として並んでいる2匹のドーベルマンに挨拶をする。一見怖く思われがちだけど、慣れればそんなことはない。見慣れている私には吠えず、むしろ寄ってくる可愛い子たち。

 ここは、祖父の代に建てられた邸宅。私の実家だ。


 大きな扉を開けると、しーんと静かな玄関。私が帰ってきた音なんて気にも止めない家族をよそに、すぐそばの階段を上がって寝室へと向かった。

 鞄を置き、すぐに足が向いた先はシャワールーム。ベタつく髪も化粧も、早く洗い流したかった。


 頭の上から流れ出るシャワー。顔面から全身にお湯を浴びながら、目を瞑った。

 そんな時、頭の中で考えることはひとつ――。

 南高嶺。あそこは、高級住宅街が立ち並ぶエリア。セレブが住む街ランキング、トップ3にランクインするような場所。そんなエリアのタワーマンションの高層階に、あの男は一人で住んでいた。


「あの人、何者なんだろう。」

 帰り際、何度も見上げたタワーマンション。今でも目に焼き付いているあの光景を思い返しながら、私はゆっくりと湯船につかって考えていた。