それから玄関へと急ぎ、慌てて靴を履く私。

「親に言われたんだろ?"彼氏を結婚させちゃえば、諦めるしかなくなると思った"って。だから俺と結婚して、やり返したかったんじゃないの?」

 その間、後ろに立つ彼がそう言って、私の心を揺さぶってきた。


「さっき、昨日今日初めて会った相手って言ってたけど、お見合い相手と俺......何が違うの?」

 もう二度と会わない相手。彼の言葉なんて無視して、急いで家を出てしまおう。そう思ってドアノブに手をかけたのに、トドメの一言が飛んできて、手が止まってしまった。


 言われてみれば、その通りだ。

 何も言い返せなくなり、耳が熱くなった。


「父の、友達の、息子さんです。」

 挙げ句の果てにはムキになり、なぜか結婚したくもないお見合い相手を盾に戦おうとする。

「俺は、零士の友達だけど?」

 でも、彼もああ言えばこう言う。


 私は振り返りもせず、無視してそのまま家を出た。扉がゆっくりと閉まっていく間、その一瞬の隙間で聞こえてきた言葉。

「すぐに戻ってくると思うけど。」

 閉まる扉の音を聞きながら、預言者のような言葉に体がぞくっと震える。

 もう二度とくるもんか。そう思いながら、私は扉を睨みつけた。