翌日、千秋さんの部屋に眠っていた婚姻届を提出し、私たちは晴れて夫婦となった。

 藤澤 晴日。

 彼の家にいた頃は、まだ実感のなかったこの名前。

 けれど、役所で受理され、「おめでとうございます」と言われた瞬間、単純にも急に実感が湧いたような気がした。


「あっ。」

「ん?」

 帰り道の車内。

 夫婦として乗る、初めての助手席。

「いや、クリスマスプレゼント。昨日、結局あげてなかったなって思って。」

 そう言いながら、運転する彼の手には、私と同じシルバーの指輪がはめられている。

「何がいい?」

「え、もらいましたよ?薔薇の花束。」

 クリスマスイヴの日。デートに誘おうと自宅まで来た彼からもらった、大きな花束を思い出し、口元がゆるむ。

 すると、信号待ちの車内で困ったようなため息をつく彼。

 私を見つめるなり、そっと頭に手を置いた。

「あれは違うから。ちゃんとしたもの。アクセサリーでも、バッグでも。欲しいもの買いにいこ?」

 頭が固定され、頭皮から手の温もりが伝わってくる。

 私は迷いながら視線だけを動かし、固まる。