「だから、偽装結婚なんて。」
私は、千秋さんの優しさを履き違えていたのかもしれない。
私を助けてくれたのも、病院を救ってくれたのも全部、彩さんが桜の中にいたから。
何も知らずに、好きだのなんだの言っていた私は、独りよがりで。そんな自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「それは違う。」
目の前に突きつけられた現実に放心状態でいると、彼はそう言って私をジッと見つめていた。
「たしかに、最初の出会いはそうだったかもしれない。彩の心臓が、お姉さんに移植されたって分かって、君の病院に近づいた。経営状態を知って、助けたいと思った。だから、治験の依頼も出資も考えたんだ。」
すると、そう言ったまま彼は黙り込んだ。突然ウェイターの男性を呼び止め、黒のクレジットカードを手渡す。
置いてきぼりでそわそわしていると、彼はおもむろに立ち上がった。
「ちょっと、着いてきて欲しいところがあるんだ。」
そして、また真剣な顔つきを見せる。
私は、そんな彼の後ろをついていき、そのまま店を後にした。

