「まあいいや。じゃあ、早速本題に入ろうか。」
「本題?」
「そっ、俺たちの結婚の話。」
コの字型のソファ。斜め前に座る彼。
思わずオウムのように聞き返すと、なんだか衝撃的なことを言われた気がする。
「今、結婚とかって.......」
「ああ、言ったよ。」
危うく、コーヒーのカップを落としそうになった。あまりにも突拍子のない話に、頭がついていかない。
「結婚って....、あの結婚?」
「他にある?」
「聞き間違いかもしれないですけどー.....」
「だから、俺たちの結婚だって。」
何回聞いても、聞き間違いではなかった。恐怖すら感じる彼の言動に、優雅にコーヒーなんてもらっている場合じゃない。部屋に留まったことを、後悔した。
「あ、このコーヒー。とっても美味しいですね。」
聞かなかったことにしよう。わざとらしく大げさな反応を見せ、話を逸らそうとした。
「覚えてないかー、相当飲んでたしな。」
しかし、その瞬間ぴくっと体が反応する。
どれだけ飲んだのだろう。何を言ったのだろう。
急に不安感に襲われ、何も思い出せない自分が恐ろしくなった。自分で自分にゾッとする。記憶がないことがこんなにも恥ずかしいなんて、私は今まで知らなかった。

