「桜の、結婚式場.....?」

 なぜ、こんなところへ。

 ドクドクと体中の血管が脈打つ中、同じように式場を見上げる千秋さんが、ボソッと呟く。

「ここが、全てのきっかけかな。」


 それ以上、何も言わなかった。

 どこからともなく現れたスタッフの男性に、車のキーを手渡すと、戸惑う私の腰に手を回す。

 そのまま館内のレストランへ連れて行かれ、少し遅めのランチを取ることになった。

 訳もわからず、食事は始まる。なぜか何事もなかったかのように注文を始め、これ以上踏み込めない空気を作る彼。それから黙々と食べ進めるものの、あまり食べた気がしなかった。

 カラカラになった喉を潤すように、一気にコップ一杯の水を飲み干す。食事を終え、全ての食器がさげられても、どこか気まずい空気は続いた。


「少しだけ、何も言わずに聞いてくれる?」

 その時、唐突に彼は言った。

 あまりに突然で、ごくりと唾を飲み込む音が今にも聞こえてしまいそうなほど。慌てて口元を拭きながら、こくりと首を縦に振った。


「今の会社はさ。元々は、じいちゃんの会社だったんだ。」

 しかし、話は思わぬ角度から入った。

「一人息子だった父親は、勝手に音楽の道に進んで、会社を継ぐことを放棄した。だから、孫だった俺に役目が回ってきた。3年前にそのじいちゃんも死んで、そのまま俺が。」