しかし、私は言葉を失った。

 構わず去っていく父の後ろ姿をよそに、ちょうど死角になって見えなかった壁の向こう側に、動く人影を見る。道に続くポールライトに照らされて、私の前に姿を現した。


「なんで.....?」

「ごめん。バイト先で、男の子がここだって教えてくれて。」

 ゆっくり近づいてきたのは、私の家を知るはずもないスーツ姿の彼。不自然に両手を後ろに回しながら、私の目の前に立った。

 そこにいたのは、千秋さんだった。

「今日、何の日だか知ってる?」

 すると、唐突にそう言う。見送るだけだと思い、少し薄着で出てきた私は、ギュッとコートを抱きしめるように悩んだ。

「12月.....」

 その瞬間、あっと声を上げた。

 今日は、24日。クリスマスイヴだった。

 すっかり頭から抜けていたイベント。もうすぐだと、世間の賑わいは目に入っていたものの、もう当日になっていたとは気づかなかった。

「忘れてた?」

「あ、うん。」

 そう反応しながらも、私はまだ千秋さんの前に立つ心の準備ができていなかった。目を合わせられず、ずっと俯いたまま立っている。


 その時、バサッと音が聞こえてきた。

 気になって顔を上げると、目の前が一面真っ赤になった。