「体に、気をつけてな。」
「はい。」
日も暮れて、辺りは随分暗くなっていた。
玄関先まで見送ると、靴を履きながら照れ臭そうにそう言う父。身なりを整え、私に背を向け、ドアノブに手をかけた。
しかし、そのままなぜか動きを止める。しばらく見ていたけれど、なかなか帰ろうとはしなかった。
不自然にも、何度か半身後ろを振り返り、何か言いた気な様子でいる。その後ろで、ただ黙って立ち尽くしている私は、心の中で首を傾げていた。
その時、突然父が呟いた。
「たまには、顔を出してやりなさい。」
それには、私も聞き間違いかと疑った。
「親の都合ばかり押し付けて、挙句勘当したのは私だ。恨む相手は、私1人で十分だ。」
「お父さん.....?」
「でもな、お母さんは、晴日を心底心配してる。」
あれから、考えないようにと蓋をしていた記憶。
最後に交わした母との会話を思い出し、一気にその記憶が蘇ってきた。
桜にかけたはずの電話に出た母。もう関わらないでくれと、胸に深く突き刺さる言葉を言い放った母。あの声が、鮮明に思い出された。

