「走れます?」

「多分。スニーカーだから。」

「よしっ。」

 私は創くんに手を取られ、その掛け声と共に足をできる限り動かした。ただ何も考えず、彼が向かう方向へと走り続ける。

 そして、急に入った脇道に引っ張られ、私は彼の背中に隠された。


 後ろから感じていた気配は、大きな足音となって迫り来る。私たちが来た道を、同じように走る音。

 息を切らしながら立っていると、だんだん近づいてくる気配に心臓が速くなる。私を後ろに隠そうと広げる創くんの腕にしがみつきながら、恐怖に足が震えた。


 その時、足音は目の前にやってきた。

 思わず目を瞑り、創くんの背中にすっぽりと隠れる私。


「きゃあ!」

 しかし、聞こえてきたのは、そんな甲高い悲鳴だった。


 目の前にいる創くんは、一瞬だけビクッと体を震わせただけで、それからなぜか動く様子はない。

 しんと静まりかえったこの状況。

 そして、どこか聞き覚えのある声。

 私は創くんの背中に手を添えながら、恐る恐る顔を覗かせた。


「もうっ!!ビックリさせないでくださいよー!」

 すると、そこにいたのは今にも泣きそうな顔で頬を膨らませる、胡桃ちゃんだった。