「どうしたの、急に。怖い顔して。」
誤魔化すようにそう言うものの、私はどこかで気付いていた。気づかないように、見ないようにしてきただけで、心のどこかで気付いている自分がいた。
胡桃ちゃんのことを言い訳にして、離れようとした。
けれど、本当はこうして近づくのが怖かっただけなのかもしれない。このまま距離が近くなって、言葉にされるのを恐れていた。そうして、今の良い関係が崩れるのが怖かった。
「はーあ、そうやって誤魔化されると思った。」
私を想う、彼の気持ち。
反応に困っている私を見ると、ため息混じりに壁へ寄りかかり、スルスルと座り込む彼。
「今までも、何度かそんな空気出してたと思うんですけど、鈍感なんだか気付いてくれなくて。ここまでしたら、さすがに気付いてもらえるかなーと思って、強引にやってみたんすけど。普通に、気づかないふりするから。」
私は口籠もり、どう言ったらいいか分からなかった。
決定的なことは口にしていなくても、それはほとんど好きだと言われたようなもので。胸のあたりがムズムズした。
こんなに年下の子から想われたのは、人生初。戸惑いと少しの優越感が入り混じる。変な感情。
かっこよくて、優しくて、年下のわりに大人びている。どこか同じ年の子たちとは違う、独特な雰囲気を漂わせている子。
だけど、私にとって彼は、そういう対象ではなかった。

