「いや、そんなこと....。」
「たしかにね、胡桃ちゃんのこともある。だけど、どっちにしても私、彼氏でもない創くんにここまで迷惑かけられない。優しさに甘えちゃったけど、明日からは本当に、1人で平気だから。」
ハッキリと告げると、一気に気持ちが軽くなる。
「ありがとね。じゃあ、おやすみ。」
面食らったように立ち尽くす彼に、私は丁寧にペコっと頭を下げる。迷いながらも、その場から動こうとしない彼に背を向けて、マンションに向かって歩き出した。
「俺の気持ち、そんなに迷惑でしたか。」
しかし、その一言で足が止まった。
さっきまでの空気が、彼の言葉でガラリと変わる。
「あんな話されたから。仕方なくでここまでしてたって、本当に思ってますか。」
後ろから近づいてくる声。彼は凍りついたように立ち止まる私を追い越して、ゆっくりと前に立つ。
そんな彼から、気まずく目を逸らした。
その時、ちらりと絡んだ視線。目を見たら、その先に続く言葉がなんとなく分かってしまい、急に聞くのが怖くなった。
「創くん、あのね。」
「気づかないふり、しないでください。」
話を逸らそうとしたものの、私は呆気なく敗れる。
若さとは、怖い。見上げた彼から真っ直ぐ向けられた視線は、恐ろしく、何の迷いもない目をしていた。

