「ううん。なんでもない。」

 一瞬、頭をよぎる疑惑。急に、彼女の言葉が蘇った。


 ――胡桃、子供じみた嫌がらせなんてしませんから

 ――何かあっても、胡桃のことは疑わないでくださいね?


 最近感じているあの視線の正体。

 私は、わざわざ牽制するように言ってきた胡桃ちゃんの言葉を思い浮かべ、それが余計に私を不安にさせた。


 彼女は、何事もなかったかのようにまた着替え始める私を見て、不満気に首を傾げる。そんな中、私は自分の世界に入りながら、心臓がドクドクと脈打っていた。

 あの視線は、胡桃ちゃんによる嫌がらせだったのか。

 頭の中でグルグルとそんなことを考えてしまい、目を泳がせる。


「おつかれさまでーす。」

 さっさと着替えを済ませ、颯爽と私の横を通り過ぎていく胡桃ちゃん。

「お疲れさま。」

 しかし、これは証拠もない浅はかな考え。閉まりかける扉に声をかけながら、すぐにそう思いため息をついた。

 きっと、私の考えすぎだ――。

 心の中で自分にそう言い聞かせ、頭を抱えるようにその場にしゃがみ込んだ。