ある日の昼下がり。

 私は内心、あまり穏やかではなかった。


 何度も後ろを気にしながら、アルバイト先へ向かう道のり。ろくに前も見ず、私はお店の裏口へと続く道を慌てて歩いた。

 その瞬間、ドンッと鈍い衝撃を受ける。

「おおっ。」

「わっ!」

 そして、同時に出た声。私は誰かにぶつかった。

 心臓が止まる思いで思考が停止し、パッと顔を上げる。すると、そこには両手を上げた状態で、ムッとした表情を向ける創くんが立っていた。


「ちょっと、瀬川さん。急に激突してこないでください。」

 私はその見慣れた顔にホッとして、胸を撫で下ろす。

「びっくりした、創くんか。」

「それは、こっちのセリフです。後ろばっか気にして、絶対ぶつかると思った。」

 私は、そんな彼の言葉をハハッと笑って誤魔化すと、またちらりと後ろを振り返る。


「気のせいか.....。」


 それは、千秋さんと会ってから数日が経ったある日のことだった。

 最近、誰かに見られているような視線を感じる。そう思うことがよくあった。

 今日も、家を出てからなんとなく後ろに気配を感じ、何度も振り返りながらここへ来た。でも、姿が見えるわけでもなく、結局モヤモヤとした気持ちが残るだけ。