「実はね。千秋がまともに会ってくれたのって、今回が初めてだったの。」

 すると、おもむろにサングラスを外し、そう言う聖子さん。

「連絡しても、忙しいです、分かりませんって、のらりくらりと私たちのこと避け続けて、それがあの子の決まり文句だった。今まで、まともに取り合ってくれたことなんてなかったのよ?」

 初めて聞く話に驚いて、私は目を丸くする。そんな私を見て、聖子さんはどこか困ったような笑みを見せた。


 ご両親のことを、あの人と呼ぶ千秋さん。パーティーの帰り道、少し話を聞いただけだったけど。それでも感じられた、親子の遠い距離。

 私は、それにどう反応したらいいか分からなかった。


「でも、そんなあの子がこの前、なんて言ったと思う?」

 そんな心配も束の間、聖子さんはスッと肩の力を抜き、優しい笑みへと変わっていく。思わず固まっていた私を見ると、クスッと笑いかけてきた。


「調整しますって、そう言ったの。」


 先程とは打って変わって、嬉しそうな表情。

 私は思わず、目が離せなくなった。


「断られるとばかり思ってたから、なんか不意打ちで、泣けてきちゃって。ああ、あの子は良い人と出会ったのね、って。そう思ったの。」

 聖子さんがあまりにも、優しい表情をするもので、聞いているこっちまでジーンときてしまった。