千秋さんのご両親はその日、夕方の便でドイツへと帰っていった。


 仕事でいない千秋さんの代わりに、2人を空港まで見送った私。帰りのバスに乗り込むと、座った途端、気が抜けたように窓に寄りかかった。

 ちょうど飛び立ったばかりの飛行機が、私の真上を通過する。


 その時ふと、最後に交わした聖子さんとの会話を思い出していた。


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「わざわざ送ってくれてありがとう。今朝は困らせてしまって、ごめんなさいね。」

「いえ、そんな。」

 大きなハットに、大きなサングラス。全身黒で統一されたコーディネートで、オーラ全開の聖子さん。


 行き交う人々の視線を集め、ひそひそと話す声が聞こえてくる。

 しかし、当の本人は気にも止めていない様子で、私の方がそわそわと周りを気にしていた。


「ねえ、ちょっとだけ話せるかしら。」

 すると、突然私の腕を掴み、そう言ってきた聖子さん。

「困らせたついでにもうひとつ、聞いて欲しいことがあって。」

 サングラス越しに、うっすら見える大きな瞳にとらえられ、思わずドキッとさせられた。


 私は言われるがまま、ご主人にトランクを託す聖子さんの手に引かれ、近くのソファに移動する。

 隣り合って座りながら、私は内心どんな話がくるのかと身構えていた。