「今朝、千秋が出かけていくところに鉢合わせてね。そしたら、わざわざ私に言ったのよ?」


 ――昨日は慣れないことをさせてしまって、気を遣って疲れただろうから、彼女が起きてくるまでは起こさないであげてください。


「あの子、あなたのことが本当に大事なのね。」


 その瞬間、私は言葉が見つからなかった。


 優しかったり、冷たかったり、いつも掴めない彼の心。何が本当で、何が嘘なのかも分からない。何を信じたらいいのかも分からない。

 だけど、なぜかその時は、無性に彼の言葉が胸に刺さった。


「私、晴日さんに感謝しなくちゃいけないわね。」

「え?」

「だって、千秋にあんな優しい表情、させてくれたんですもの。」


 うっすらと涙を浮かべ、その光景を思い出している様子の聖子さん。そんな彼女の表情が、全てを物語っていた。

 千秋さんの優しい表情。


 それが、私の心を余計に戸惑わせた。