「でも、それは全部、私が可哀想だったから。ただ、それだけなんですよね。」


 浮かべていた笑みもだんだんと消えていく。

 千秋さんは私の家を救っただけ。ただそれだけ。


「あなた......。」

 俯く私はそう言った聖子さんの声も耳には入ってこなかった。



「晴日さん。」

 すると、突然冷たい手が触れ、ビクッと我に返る。

「あなた、きっと大きな勘違いをしてる。」

 そのまま、そっと両手で私の手を握った彼女は、優しい瞳でこちらを見つめた。

「こんな母親だけど、これだけは分かる。多分、あの子はそんなにお人好しな人間じゃないわよ?」


 そして、ニッコリと笑いかけてくる聖子さんに、私は頭が混乱していた。

 その言葉に、どんな意図があるのか。彼女の真意がわからず、目を泳がせた。


「あと、ひとつ良いことを教えてあげる。」

 パッと私から離れ、コーヒーのカップに手を伸ばした彼女。そのままゆっくり背もたれに寄りかかると、クスッと笑みを浮かべた。