ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜


 翌朝、隣にはもう、彼の姿はなかった。


 ベッドを出ると肌寒い空気を感じ、カーディガンを羽織って部屋を出る。腕をさすりながら体を震わせ、辺りを見渡した。

 けれど、彼の気配はどこにもなかった。

 その代わり、ベランダに立つ聖子さんの姿が見え、おもむろに近づいていく。


「寒くありませんか?」

 後ろからそう声をかけると、彼女はハッとしたように振り返った。

「ええ。外の空気を吸いたくて。おはよう。」

「あ、おはようございます。」

 手には温かそうなコーヒーを持ち、ゆっくりと部屋へ入ってくる。


「あの、千秋さんは。」

 私はそんな聖子さんの姿を目で追いながら、いまだ姿の見えない彼を気にした。


 時刻は、8時。

 いつもなら、ちょうど起きてくるような時間だった。


「千秋なら、朝早くに出てったわよ?緊急の要件を思い出したからって。」

「そう、ですか.....。」


 ――緊急の要件

 思わず、その意味を勘ぐってしまう。