「私たちって、何だったんだろう。」
ドキドキ脈打っていた心臓も落ち着きを取り戻し、自然とそんな言葉が飛び出していた。
「お互いのこと何も知らないまま、当てつけみたいに結婚して、この家に住み始めて。もう、私の人生なんてどうでもいいって、投げやりになってた。」
桜と矢島さんの結婚。
神谷さんとのお見合い。
父とした初めての喧嘩。
ボーッと口を動かしながら思い出すと、いろんなことがあったと懐かしくなった。
けれど、そんな記憶はとうの昔にしまいこんでいて、今あるのは千秋さんとの暖かい思い出がばかり。
「でも、千秋さんと一緒にいるうちに、この家にいるのが落ち着くようになってて。偽装結婚でも、愛のない結婚でも、幸せだって思えたんです。相手があなたで良かった。千秋さんで良かったって、本気でそう思ってたんです。それなのに――」
その瞬間、私は温もりに包まれた。
後ろから回された腕。突然背中が熱くなり、がっしりとした体がまとわりつく。
ギュッと強い力が込められた。
「なんで今.....。」
今までどんなに一緒にいても、縮まらなかった距離。優しい言葉に喜んでも、すぐに遠くへ行ってしまう。心の距離を感じてた。

