「よしっ......。」
漏れ出した小さな声。意気込むように開けた扉の先の光景に、私はごくりと唾を飲んだ。
そこは、リビングの向かいにある、千秋さんの寝室。
お風呂から上がり、少し湿った髪の毛に指を通しながら、無意識のうちに髪型を整える。
思いも寄らず、ここに泊まると言い出した彼のご両親のおかげで、私はこの部屋で一夜を過ごすことになった。
妻を演じている以上、別々の部屋で寝るわけにはいかない。
そう結論に至ったものの、目の前には一つの大きなベッド。それは同時に、このベッドで一緒に寝るということを意味していた。
ここに住んでいた間すら、一度も入ることのなかった彼の部屋。ゆっくりとベッドに近づきながら、ふかふかの毛布に触れると、自然とため息が出た。
静まり返る部屋の中で、ボーッと辺りを見回す。
この部屋に入ったのは、あの日以来のこと。
あれはまだ、千秋さんのこともよく知らない、偽装結婚の話すら聞く前のこと。二日酔いでボーッとしていたけれど、あの時の光景はよく覚えている。
つい半年前のことなのに、色々なことがあったせいか、随分前のことのようにも思えた。
「あ。」
その時、開けっ放しの扉の向こうから聞こえてきた声。
振り返ると、お風呂から出たばかりで、まだ湯気を帯びている千秋さんと目があった。

