「今日ね、ここへ泊まらせてもらおうと思って。」


「え。」

「え?」


 そして、予感は的中する。

 聞こえてきた突拍子もない発言。サーッと血の気が引く思いで、顔が引きつった。

 私たちは目を合わせる暇もなく、途端に声だけが漏れ出す。固まった表情のまま、一瞬沈黙が流れた。


「聖子。新婚の家にそれはないだろう。近くにホテルでも取ればいいじゃないか。」

 そんな空気を察してか、慌てだすお父さん。しかし、そんな言葉を笑い飛ばし、聖子さんは笑顔で返した。

「あら、いいじゃない。海外ツアーが始まれば、もう何年も帰ってこられないかもしれない。だからいいでしょ?ねえ、晴日さん。」


 そんなご両親の会話に巻き込まれれば、私が対処なんかできるはずもない。


 向けられた三つの視線にたじろぎ、ただただ笑顔を作ってこう答える。

「はい。」

 私にできたのは、こうすることくらいだった。