「千秋さんのお料理、初めてですか?」

「ええ。あの子がキッチンに立ってるところなんて、初めて見たもの。」

 そう言いながら、ボーッとキッチンに目をやる聖子さん。


 私も立ったままつられて視線を向けると、突然、半年前の光景が蘇ってきた。


 短い間の、数少ない思い出。

 色々な記憶が頭の中を駆け巡り、どれもこれも昨日のことのように思い出される。ろくに目も合わせず、淡白な会話しか交わすことのできない今日とは大違い。

 あの日々は、幸せだった――。



「まー、本当に美味しかったわ。ねえ?あなた。」

「ああ、美味かったよ。千秋にこれほど料理の才能があったとはな。」

 食事を終え、満足そうに口を揃えて言うご両親。

 私は気を遣ってばかりで、美味しいはずの料理もあまり味わえずにいたけれど、ひとまず乗り切れたようでホッとしていた。


「母さん、明日は何時の便です?教えてくれれば、ホテルから送りますよ。」

 相変わらずのよそよそしい敬語は、どれだけ聞いても歯痒さを覚える。作られた笑顔を隣で見つめながら、少し悲しくなった。


「ああ、そのことなんだけどね?ここ、ゲストルームとかあるのかしら。」

 すると、何かを思いたったように立ち上がる聖子さん。その瞬間、パッと顔を上げ、なんだか嫌な予感がした。